日明恩



それでも、警官は微笑う
鎮火報
そして、警官は奔る






2003年9月10日
 それでも、警官は微笑う


出版社:講談社(2002)

★第25回メフィスト賞受賞作。タイトルから分かるように警官モノ。 それなのに不思議と語り口は柔らかく、登場人物を見つめる視線が優しい。

 物語は池袋署勤務の武本が何処で製造されたか分からない拳銃で起こった事件をきっかけにその拳銃の出元を探るべく捜査を しているところから始まる。同じタイプの拳銃が様々な事件に関係しており、主人公の武本はその拳銃を追ううちに麻薬取締官の宮田とぶつかった。 宮田も違う事件を追っていたが、それには武本が追っている拳銃が関わっていた。果たして拳銃の密売元はどこなのか?

 初めからは想像できないほど事件が大きい。実際にこんな事件が裏で動いていたら、と思うと恐ろしくなるような真相である。 最後の方は武本が命令無視をして突っ走らないと解決されない程の事件である。 一人の刑事が手におえる事件ではなく、色々な所から圧力がかかり、何度も捜査を終了させられそうになる。
 この物語では物語を上手く進めるためのキャラクタが居る。それが武本の上司・潮崎である。この潮崎警部補、 実はあるお茶の家元の息子で『お母様』は警察の上に権力をかけるなんて朝飯前なのだ。私が一番気に入った彼の台詞は 「使うべきときに使えてこその権力ですよ、課長」である。ごもっとも。彼は普段 ノンキャリなのにトントン拍子に昇進した事と、親の存在のせいで本庁の刑事等から些細な嫌がらせを受けているのである(勿論雑用を無駄に押し付けられる、とかそう言うことだが)。
 この潮崎警部補が居るおかげで、ともすれば殺伐になりかねないシーンもちょっと肩の力が抜けたシーンになっている。 そして、彼のキャラクタも使い勝手が良いだけで終わるのではなく、きちんと成長するように書かれているのに好感が持てた。

 この物語の見所は、武本と宮田のそれぞれの職場における人間との信頼関係や、考え方の違う二人がどう歩み寄るのか、そう言った人物の 描写にある。刑事ものならではの上からの圧力と言うのもあるが、なんだかこれまでのメフィスト賞とはちょっと違う空気を感じた。 この作品がノベルスではなくハードカヴァの単行本として発行された理由もなんとなく分かった気がする。


2003年10月7日 鎮火報


出版社:講談社(2003)

★どんな作家にとっても2作目と言うのはとても大切だと思うのだが、この「鎮火報」は 文句なしに面白い。
 今回は若い消防士が主人公で語り手である為か、文章が少々下品。だか前作ではきちんとした文体だったと記憶しているので、この辺りの書き分けを しているという事なのだろう。

 主人公の雄大は救助活動の最中に死んだ消防士の父が嫌いだった。しかし、その父に助けられ、自らも消防士となった仁藤に 「お前には消防士になれない」と言われ、その発言に反発し雄大は消防士になった。
 自分の命を賭してまで他人を助けたくない。まして消防士なら助けてあたり前と思っている連中の命なんて…。そう思っていた雄大は消火作業中に不思議な 体験をする。しかし、それにはある秘密が隠されていた。その事件の真相を通して雄大がたどり着いた結論とは!

 消防士の世界である。私たちが日々何とはなしにお世話になっている人々である。
 まず、その仕事の大変さに驚く。漠然とキツイ仕事だとは知っているが、まさか分担して自炊し、出動要請があれば3分以内に署を出発し、交替勤ともなれば 24時間勤務だなんて事は知らなかった。そんな世界を見せてくれる本である。

 元々消防署の前を通るたびに訓練してないかな〜と思いつつ通り過ぎるのだが(訓練中の消防士はカッコ良い。まじで。)、今度からは 車庫に全車揃っている事を喜びたいと思う。

 警察官、消防士と来て毎回入管が活躍するので次はマトリの話をお願いします。是非とも日明嬢の文体で読んでみたいです。


2004年12月12日 そして、警官は奔(はし)る


出版社:講談社(2004)

★デビュー作の武本&潮崎の警官シリーズ続編である。と言っても前回の話で潮崎は警官を辞めてしまっているので ただの民間人、無職の兄ちゃんである。

 今回の事件も入管の領域が関わってくる。オーバーステイや違法入国などで 不正に日本に滞在する外国人女性の子どもたちにまつわる話が中核に据えられている。子どもたちは日本人男性との間に生まれるが、 出生届を出せるわけでもなく、戸籍はない。男親に認知させれば戸籍を得る事ができるが、殆どがそれもかなわずに存在すら 認められぬままに生きていくことになる。
 事件を追う中でそう言った子ども達の存在を知った武本は、その子どもたちを法を侵しながら助ける女性・羽川のぞみの存在を知り、 黙認するかどうかと苦悩しながら捜査を続ける。
 そんな中、そんな子どもたちを食い物にしている人間や、危害を与えていた人間が不法滞在の外国人の手と思われるやり口で 殺される事件が続発する。

 なんと言うか、このシリーズ、出て来る犯人は本当に厭な人である。もうむかついてむかついて仕方ない。今回武本 とコンビを組んでいる和田が殴らなかったのが驚きなぐらいだ。ところでこの和田、最初の方のキャラと最後の方のキャラが大分違うんだが。。。(笑)。
 人間の善意や優しさといったものを信頼しない、できない事はとても寂しい。しかしここまで悪意を見せ付けられると憂鬱になる。

 ところで今回も潮崎家の財力・権力にびっくり。とうとうやっちゃったよ……という感じ(笑)。でもまあ、立ってるものは親でも使えってね。



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