2003年10月14日 覘き小平次
出版社:中央公論社(2002)
★意外や意外。京極夏彦がこの日記に初登場である。京極堂シリーズも全部読んでいるのに、全部去年の秋前だったんですね…。
さて、今回読んだのは時代物。時期は…江戸とか出てくるし江戸時代なのかな?「巷説百物語」とかと同じシリーズですが、仕掛け人の又市は出てきません。
今回は仕掛けの中で登場人物が勝手に踊って落ち着く所に落ち着くだけ。
今回の主人公は人と関わるのが嫌で、昏闇に馴染んで融けてしまいたいと考えている男・小平次。小平次はその妻にも友人にも全く反応を示さない為、
妻には毎日詰られていた。
そんなある日、全くの大根役者の小平次に田舎芝居の話が舞い込む。小平次が演じた幽鬼を見ていた人物が小平次が適任だと話を振ったのである。小平次は大根役者だが、
幽鬼役だけは逸品だったのだ。その遠征先で起こった捕り物騒ぎ。それに小平次が関わっているという。真相を悟った友人が起こした行動は…。
一章毎に一人称が変わり、それぞれの人物が深く掘り下げられている。AがBに思っている事とBがAに思っている事がズレていたりするところが分かって
面白い。また、殆ど他人に反応を示さない小平次に対する人々の扱いと、その思いのズレ等、興味深い。特に小平次とお塚の関係は不思議だが、
最後まで読むと「もしかしたらこうなのではないか」と言うものが見える。
又市シリーズは毎回泣かせてくれるが、今回もまたちょっとせつなくなった。
2003年11月3日 陰摩羅鬼の瑕
出版社:講談社(2003)
★京極堂シリーズの最新刊。依頼を受けた探偵・榎木津と、その付き添いの小説家・関口が長野の「鳥の城」を訪れ、
そこで理解できない連続殺人事件に巻き込まれる。榎木津は高熱で視力をなくしており、目は見えないがいつもの能力、他人の見たモノはいつもより明瞭に
視えているようだった。榎木津は誰かが人を殺す所は視ても、誰が犯人なのかは判断できないのだった。
取り合えず、事件が起こるまでが長い。まあ、いつもの事なのだけれども。しかし、それまでの下地があって事件が成立するようなものだから、
丁寧に読んでもらいたい。しかし、丁寧に読めば読むほど真相は見えてきやすいかもしれない。現にかなり鈍い私ですらぼんやりと真相は予想できたし。
と言うか、あの(笑)関口が真相に至るくらいなのだ。懸命な読者なら事件が起こる前から真相にたどり着けるだろう。
このトリック、とてもスマートで京極夏彦氏らしいトリックだと思います(と言うかトリックと言うのか…)。1作目の「見えない死体」と同じくらいのインパクトですね。
こういった類いのトリックは京極氏が一番、でしょうね。
さて、ここからは私の素直な感想である。微妙に同人系である(笑)。
今回は関口復活おめでとう!と言いたい。宴で散々に壊れまくっていましたからねぇ…。鬱病からもなんとか浮き上がって来たみたいだし、良かった良かった。
そうと知らずに横溝正史と話してたり(笑)、文学界ではちょっと有名なのか関口巽!作中作で関口の作品が載ってたりしますが、これが中々に重要だったりします。
でも、幸恵さん(関口の奥様)にあやまれ!とも言いたい。
あんなに尽くしてくれる奥さんの顔を思い出せないとは何事か!!ありえません!関口巽、いい加減にしなさい!
あんたの為に幸恵さんがどんなに苦労したと思ってるんだっ!!何でこの男と幸恵さんが結婚したのかさっぱり分かりません。京極堂は
「世の中には不思議な事などなにもないのだよ」と言うけれど何故幸恵さんがこの汗っかきと結婚したのかがこの世の不思議である。
それにしても榎木津はホント何もしませんでしたね。メイドはべらせてるし(笑)。でもまぁ、彼は言葉が足りないだけであって、阿呆ではないんだよな。としみじみ思ったりもしました。
彼の行動は彼の能力を理解していたら不思議でも何でもないんですよねぇ。ただ榎木津は
そう言う風に視えるのが普通であって、他の人には見えないと言うのなどお構いなし
なので説明が足りなくなる・と言う事なのでしょう。今回の事件も結局はそういった部分が原因になっていますし、そう考えるとかなり始めから
事件の真相は明示されていたも同じと言えるかもしれません。
あ、後、里村医師にも出番があったのが嬉しかったです。1作目からこの人結構好きなので〜vvでも腕が良い検死医だったんですねぇ。
切り刻んでも綺麗に元に戻せる…って、ちょっと危ない人みたいですが(笑)。でもしっかり死亡推定時刻を出してきたり、伊庭の奥さんに線香あげにきたり、
ちょっと見直しました(<どんなヤツだと思っていたんだよ?)。
久々の京極堂シリーズ、かなり読むのに時間がかかってしまいました。が、とても面白かったです。最後まできっちり読んで欲しい作品ですね。
2004年2月14日 本朝妖怪盛衰禄
豆腐小僧双六道中 ふりだし
出版社:講談社(2003)
★とうとう妖怪本である。そもそもこれまでも妖怪の名前が出て来ていたわけであるが、
今度は名前だけではない。ないものとして存在しているのである。ああややこしい。
結局概念である妖怪(この辺は読めば分かります)は、人間が感得してくれなければ沸いて出る事が出来ない。
ここに妖怪の存在の危うさがあるわけであるが、そこで「消えたくない」と思う妖怪たちがとても愛しい。
自分の意思とは無関係に自分の存在が消される恐怖。人間だって「忘れられる」事はとても辛い。
妖怪にしてみれば「忘れられてしまう」=「存在しなくなる」なのである。
そう思ったらあそこまで必至になるのも分かる気がする。ただ、豆腐小僧がお馬鹿なのでちょっとコミカルになってしまうのだけれど。
2004年3月22日 後巷説百物語
出版社:角川書店(2003)
★巷説百物語、正に後の話である。
メインとなるのは御行又市とは一切関係のない若者四人。不思議な事件に出会う度にある翁の所へ相談に行く。
そこで語られるのは不思議な騙りの物語なのである。
その翁と言うのは実は山岡百介の事である。彼は若者たちに又市らの仕掛けの表面だけを語る。
彼らはそれを現在の事件に応用し、解決する。
連作短篇形式なので、後半になれば若者たちの関係が変化し、真実が見えてくる。そして最後に残るのは――。
表面だけを見せる翁の語りと、百介が語る裏の事実。
ほんの些細な事が隠されるだけで事実が不可思議な事象に思えてしまう。
その演出が極めて上手い。これに気持ちよく騙されるのもまた、京極小説の楽しみ方である。
直木賞を授賞した作品。ちょっと遅すぎる気も致しますが…(<このレビューもな)。何はともあれ、
おめでとうございました。
2004年12月15日 百器徒然袋―風―
出版社:講談社(2004)
★探偵・榎木津とその下僕(笑)の話その2。榎木津に関わった人間は
猛烈な勢いで馬鹿になると言うが、本当の事である。なんと言うか、
榎木津に関わっていると「俺が悪いのか?」と言う気分になってしまうのだから仕方ない。
それにしても、心なしか京極堂すらちょっと面白キャラになっている気がしたのは気のせいなのか??久々に読んだからかなぁ……??
元祖下僕の関口が出なかったのはちょっと寂しい所ですが、益田くんとか新下僕の本島くんが
思い切り虐げられていた(笑)ので良しとしましょう(<していいのか?)。
中篇が三本収録されているが、1番頭から積み重ねて読んでいくと最後の最後に感動できると言う仕組み。
私は思い切り主従萌え(意味が分からない人は流すように)してしまいました。こうしてみんな榎木津の下僕に
なっていくのだな(笑)。