2003年1月30日 追いし者 追われし者
出版社:原書房(2002)
★氷川透氏の本を読むのは実はこの本が初体験。前知識として、変わった記述様式を取ると聞いていたのでちょっと構えてしまったのだが、
読み始めると何の事は無い、普通の一人称だった。外挿2、までは。
外挿2まで、私はこの作品の構成に全く気付かなかった。まあ、いわゆるオメデタイ読者と言うやつである。
バッチリ作品の罠にはまってしまった館風であるが、その外挿2の後は多少読み方が変わった。しかし、外挿3でまたしても罠にはめられていた事に気付く。
ありゃりゃりゃりゃ。またしても軌道修正を取らされる館風。まったく作品に翻弄された。
しかし、最後の最後まで明かさない真相や、トリックは面白かったです。要するに、気持ちよく騙された、と言う事です。ミステリィは騙されてナンボだと思っているので、
これでいいのです(笑)。
2003年2月16日 真っ暗な夜明け
出版社:講談社(2000)
★氷川透氏のデビュー作。やっぱりメフィスト賞系の作家さんはいいですね。一般受けはしないかもしれないけれど・・・(爆)。
社会人になって暫くして大学時代のバンド仲間で集まり、飲み会をした。散会後、別れたはずのメンバの1人が駅構内のトイレで殺されていた。
容疑者はバンドのメンバ全員。果たして殺したのは誰なのか。そのうちにメンバの1人が密室状況で墜落死した。自殺か、他殺か。果たして犯人は。
主人公は作者と同じ名前の氷川透。ワトソン役に作者と同名の主人公を持ってきた人は数有れど、探偵役に作者を持ってきたのは初めてではないだろうか。
なんだか素敵な方である(笑)。
密室トリックやアリバイトリックは至極スタンダードで真っ当。しかし、この人間関係に重心を置いた描き方が、他のミステリィと一線を画している。中々に不思議な語り口で、多少メタな印象を受けるが、それが
鼻につく程ではなく、むしろ読みやすい。
しかし、推理の過程がほとんど電話で行われる為、その背景が見え難く、シーンをイメージし難かった。まあ、推理するだけなのだからその辺は関係ないのかもしれないが。
人間関係に重心を置きつつ、殺人事件を解くと言う狭い意味でのミステリィでも充分な満足感を与えてくれた。一冊でお腹いっぱいになる本です。読む時間が充分にある時に余裕を持って読んで欲しいと思います。
2003年4月29日最後から二番目の真実
出版社:講談社(2001)
★これは「氷川透」シリーズの第・・・・二弾?(<誰か教えて下さい。。。爆)。ともかく、探偵役は氷川透なわけで。
セキュリティシステムの整った建物内で起こった殺人事件。その部屋に居たはずの人物は別の場所で死体で発見され、部屋には別の死体が転がり、犯人の姿は無い。
ドアの開閉を記録するシステムやら、建物への出入りをチェックするシステムやら、今では平然として存在するけれども、小説の(それもミステリの)世界では出てくる事が無かったような
システムてんこもりのトリック。しかし、そのシステムの設定を読者に提示しようとしすぎるあまり、トリックは見抜きやすくなっていた気もします。親切すぎる説明があだになったとも言えるでしょう。館風的に「うわ!そんな事思いもしなかった!」って言う
解決が大好きなので、うっすら予想してしまった自分が悔しくてたまりません。
話の前半でゲーデル問題(説明できないので読んで下さい。)にも言及しており、クイーンよろしく、途中に「読者へ」と言うページが挟まれています。その前のページまでで推理は成立する、と言う事ですね。
今回の探偵役の、情報を多く与えられた氷川と、情報が足りず違う結論に達した祐天寺美帆は、そう言う意味で「どこまでいったら全部の情報が揃ったと言えるのか」と言う正にゲーデル問題の部分で命運が分かれています。
材料が違えば出来上がるものも違う、とそう言うことなのでしょう。現実世界にはどこで物語が終ったか、とか有り得ないわけですからね。
それにしても今回探偵役に踊り出た祐天寺美帆はすごかった!
お嬢様言葉で喋り、優雅な身のこなし。正にお嬢様!でも、作中人物が悉く「なんだこのイキモノは・・・」と言う反応を示す(笑)。
そうか、お嬢様らしい「お嬢様」が実際に居たらああいう反応にならざる得ないのか。ちょっと面白すぎるので是非とも読んでみて下さいね。
2003年5月10日
密室は眠れないパズル
出版社:原書房(2000)
★どうやらこちらが氷川透シリーズの第二弾だったようですね。これは1997年の鮎川哲也賞の最終候補に残った作品を改稿改題したものらしいです。
外側から閉じられた深夜のビル内で起こった二件の殺人事件。犯人だと名指しされた人物は、更なる密室の中で殺されて発見された。ビル内に残っていたのはわずか8名。果たして殺人鬼の仕業なのか、それとも8人の中に犯人が居るのか!
朝7時までという期限付きの密室状態の中で犯人当てが行なわれる!今回も勿論読者への挑戦状付き!
とまぁ、今回もミステリィの粋を集めたみたいな構成です。裏返しの密室に移動する密室。密室好きの人には是非とも読んで頂きたい一品です。
今回探偵役を引き受けたのは(作中の)氷川の担当編集者の小宮山。これがもう、完璧に名探偵である。探偵候補の氷川は小宮山のあまりに素晴らしい探偵っぷりに
「ああ、かなわない。。。」とうじうじいじけてしまったりして、名探偵になりたいと思っている人しかわからない敗北感を感じたりしてます。
でも氷川透はそれがいいんですよね〜。なんだかんだうじうじして負けた〜とか思っていても最終的に真犯人を当てるのは彼ですし(笑)。うじうじしてたり変なことに気をまわしてたりするのが可愛かったりもしますし
(<最早作中の女性キャラにシンクロする館風)。
毎回「あ。この女の子いいな〜」って氷川が思う割りに(おまけに向こうもそう思ってたりする割りに)毎回上手く行ってませんね。ちょっと氷川氏は惚れっぽすぎるんじゃないでしょうか(笑)。
あれ?探偵役の小宮山の話じゃなくて(作中の)氷川透の話になってしまった(笑)。
そうですね。氷川透シリーズがシリーズであるが故に「氷川透以外の探偵役が出した推理は間違いである」って言うのが
読者に容易に想像できてしまうんですね。だから「どうせこの後氷川が更に上を行く推理をするんだろ?」と思ってしまうわけです。実際そうですし。
しかし今回はもう一ひねりあったりして、中々に楽しめます。タイトル通り、眠れないパズルを楽しませて頂きました(<夜を徹して読んだ女)。
2003年5月15日 人魚とミノタウロス
出版社:講談社(2002)
★今回の氷川透(勿論作中人物の氷川透の事ね。以下「氷川氏」なら作者、「氷川」及び「氷川くん」なら作中人物としたい)は様子が変だ。
いつにも増して氷川は女性に目を奪われているし(なんかしつこいくらい見とれていたぞ)、男女の境目の事をやたら考え込んでたり、何かあるな、と思わせる氷川の壊れっぷりだった。
まぁ、いつも「小説家になれない」と凹んでいる氷川くんであるから、それがスタンダードだといえるかもしれない。
懐かしい友人・生田に氷川が久し振りに再会した次の日、生田は生きたまま焼き殺された。しかし、黒焦げの死体は指紋を判別できないほどだった。
ミステリマニアな氷川がまず考えたのは、本当に死んだのは生田だったのか、と言う事だった。果たして本当に死体は生田のものなのか。それとも殺したのが生田で殺されたのはまったく別の人間だったのか。
氷川はそんな可能性の中、いつもと同じように推理をひらめかせる事が出来ない。
そんな中、警察も到着していたにも関わらず、もう1人、全く同じ殺され方をした!連続殺人か?!それとも模倣犯か?!そんな中氷川の推理が組みあがった!
そっれにしても、今回はいつにも増して視点モードの人物の思考が大スパークしていましたね。登場人物が氷川氏の事を意識していたりとか、
ちょっと「クスッ」て感じで笑ってしまいます。こういう形式で書いているのはきっと氷川氏だけでしょうね。面白いです。
そう言えば毎回恒例の「読者へ」のページで「女性は名前で呼び、男性は苗字で呼ぶ慣習に従い・・・」って言う記述があるのですが、
これを読んで森博嗣の某シリーズの某人物を思い出しました。なるほどねぇ。(意味がわからなかったらごめんなさい。両方読めば分かる。。。のか?)
今回のテーマは性同一性障害とか、人間の認識から生ずる性差に関する話とか、結構重めのテーマ。心理学とかやってない館風はまぁ何と言うか「ふうん」って感じでしかない訳で。。。(爆)。
勿論こういった部分も十分楽しみましたが、今回館風が心に残ったシーンは氷川くんと生田の関係とか、推理を披露していくシーンから最後にかけてとか、ですかね。氷川くんの正しい反応にちょっと、安心しました。
生田と氷川の関係にはちょっと憧れるものがありますね。あんな友情の形って、いいと思います。
2003年6月2日 密室ロジック
出版社:講談社(2003)
★今回、氷川くんは事件に直接関わっては居ない。今回は彼の学生時代からの友人二人が事件に巻き込まれ、その二人が
氷川くんに事件解決を頼む、と言う展開。氷川くんは「これだから小説家になれないんだよな…」と独りごちるも、
またしても探偵してしまうのであった。
殺人事件は間接的な監視状態にあり、一見密室状態と思われる会議室で起こった。誰が、いつ、犯行をなしえたのか、そして逃げる事が出来たのか。そこを焦点に
氷川は推理を進めて行く。
今回は純粋に「論理の密室」なので、氷川は誰が犯行を成し得たか、と言う点だけで推理する。勿論動機云々の話は無し。おまけに事件の謎が解かれても動機は出てきません。いや、出てきたのかな?はじめに(笑)。
わかりません。知らん。そんな所なんてもう忘れました(爆)。
ところで、今回、詩織里に「ウィナー!」ってやりたくなるのは私だけでしょうか?(笑)
2004年12月13日 各務原氏の逆説
出版社:徳間書店(2004)
★実は……これ、何がどんでん返しなのかわからなかった(爆)。
それもこれも全て私が登場人物表も目次も見ないで読み始めるからなのだが、それにしたってひどすぎる。
まあ、それはともかく、トリック部分はバッチリ本格ミステリィ。このトリック部分は気持ち良いくらい。
あ、後割と恋愛小説っぽい部分も好きなので次は恋愛小説を書くって如何ですか?(笑)。
2005年5月2日 逆さに咲いた薔薇
出版社:光文社(2004)
★今回の主人公は警察官(と言うか刑事)。そして、今回の探偵役はなんと「最後から二番目の真実」で氷川くんとやりあった
祐天寺美帆!!あの奇想天外さは健在。いや、むしろエスカレートしている気がするのだが……(笑)。
事件は左足の小指を切断された死体が見つかると言うもの。それが3件も連続して見つかった物だから警察は合同捜査本部を立ち上げる。主人公の椎名は
足で稼ぐ捜査から外され、無差別連続殺人なのか等、事件の性質を検討するチームに回される。必要な事ではあるが、何故・と言う気持ちも隠しきれない椎名。
そんな中、椎名(と部下の鳥山)は無視できない可能性を発見する。
小説に類似した殺人事件。しかし、実際の事件と小説では瑣末な違いもある……。
読み進めると、「逆さに咲いた薔薇」と言うタイトルが厳然と輝きを放つ。この意味を理解した瞬間が
この小説を読んでいて震えるほどの感動を得る事ができる瞬間だと思う。
この瞬間を味わう為に是非とも読んで頂きたい。
2005年6月10日 各務原氏の逆説
見えない人影
出版社:徳間書店(2005)
★各務原氏シリーズの第2弾。今度の事件も学校の中で怒った事件で、
サッカー部のエースが失踪し、翌日死体で発見されると言う一緒に活動をしていた人間からしてみれば
かなりショッキングな事件だ。
しかし、それ以上にショックなのは動機の解明のシーン。2人の人物が殺されるのだが、二人目が殺される理由なんて言うのは
ショック以外のなにものでもない。勿論、殺されて良い人が居る何て言う論理にはならないのだけれど、
こう言う理由で殺される(と言うか、結果と照らし合わせて考えると、なのだけれど、これは読まなきゃ解らないな。。。)となると
極悪人が殺されるよりはちょっとショックだ。
最近読んだ某本(つまんなかったので日記には載せませんが)は殺人犯と被害者の関係をとても凶悪な関係として
描いていて、殺人犯は被害者に虐げられていたからと言うのが動機だったのだけど、
最後の最後に「そんな事がありました。だから殺したんです」みたいに言われても納得いかない。
だったら人を殺しても良いのか?と言うか、「そう言う人は殺しても構わない」みたいに思わせるのは
本当に平等か?と思う。
そんなお為ごかしよりはこの本みたいに軽い動機だった方がリアルだ。
あー、後、人物消失のトリックですが、偶々この本の直前に読んだのが綾辻行人の「暗黒館殺人事件」だったせいで
「え?」と思ってしまいました。この組み合わせ、相性悪いのでお気をつけて。。。。(笑)。