浅暮三文



似非エルサレム記 石の中の蜘蛛
カニスの血を嗣ぐ 10センチの空
殺しも鯖もMで始まる 左眼を忘れた男






2003年9月27日 似非エルサレム記


出版社:集英社(2003)

★エルサレムと言う土地は色々な宗教の聖地である。それ故にエルサレムでは大昔から争いが起こってきた。もしその エルサレムと言う土地が争いに嫌気がさして逃げ出したら?と言う事を 描いたのが本書である。
 エルサレムが逃げ出すと世界はどう対応するだろうか。その事が戯曲風に描かれている。 しかし、この本で書かれていることは(エルサレムが意志を持って逃げ出すという事を除けば)今にも起こる事である。 これを読んでいると人間をしているのが嫌になってくる事請け合いであろう


2003年10月24日 石の中の蜘蛛


出版社:集英社(2002)

★ファンタジーとハードボイルドの融合。らしい。ハードボイルドを読んだ事のない私はちょっと戸惑った。

 主人公は引越しの直前、車にはねられ、聴覚だけが過敏になるという事態に陥った。 音が見える状態になってしまったのである。その能力を生かして 自分が越した部屋に前に住んでいた女性を探るうちに、色々な事に気付く。そして、段々と聴覚だけが肥大し、 日常生活に支障を来たすまでになっていった。

 はっきり言って主人公が前に住んでいた女性の事を 音の痕跡から探る作業はストーカー並に気持ち悪い。また、音の描写がいちいち生々しくて この小説の特異性を増幅している(<褒めてます)。この圧倒的な筆力によって生み出される音の波に漂ってみるのも良いのではないだろうか。


2004年3月17日 カニスの血を嗣ぐ


出版社:講談社(1999)

★五感シリーズ「嗅覚」である。主人公は人間の何倍もの嗅覚を持つ。 それを持つに至ったのは何たらと言う病気らしい(作中に出てきたがよく覚えていない)。
 そんな男がある日一夜を共にした女が次の日死んだ。男はそこに何があったのか探るべく 自らの特殊な嗅覚を使って動き出した。

 とにかく嗅覚の描写が凄い。この誰も見たことのない世界を描く 筆力は相変わらず。ねっとりとした視線にも似た匂いの世界は読んでいるこちらでさえ息苦しくなる

 ハードボイルドなのでちょっと引いてしまう人も居るかもしれないが、 自分の踏み込んだことのない世界をたまには覗いてみるのも悪くないかもしれない。


2004年4月29日 10センチの空


出版社:徳間書店(2003)

★今まで読んだ浅暮作品の中で最も爽やかである。主人公は就職活動を始めるか始めないかぐらいの 大学生。そんな彼には秘密があった。それは、空を飛べる事。しかしそれが誇れないのはその高さがたった10センチしかないからだった。

 主人公が何故飛べるようになったのか、それを探るうちに自分の中でわだかまっていた事が明白になっていく。 誰にもしこりのようになってしまった思い出等があると思う。これはそれを克服する物語だ。本人ですら忘れてしまったしこりを 思い出させてくれるような本である。

 それにしても、素晴らしいのは空を飛ぶ描写だ。ほんの十センチしか飛べない理由が素晴らしい。どんどん飛べなくなっていってしまう けれど、この原理はとても素敵だ。


2004年6月11日 殺しも鯖もMで始まる


出版社:講談社(2002)

★埋めた痕跡の無い地面の下の空洞から発見された奇術師の死因は餓死だった。 何故奇術師は窒息する前に餓死したのか。前代未聞の密室に 前代未聞のことわざ探偵が挑む!

 探偵役の樫村青年はアメリカ帰りでおかげで日本語訳したアメリカの言い回しが出る出る。英語を知っていたら爆笑必至だし、 知っていなくてもその違和感に笑える事間違いなし。
 こういってしまうとバカミスの様ですが、腐っても密室本。二つの密室は中々に本格的。ガチガチのミステリィに疲れたらドウゾ。


2004年6月17日 左眼を忘れた男


出版社:(2002)

★突然道路で後ろから殴りつけられた主人公。気がついたら左眼を喪失し、植物状態 として病院のベッドに居た。しかし、耳は聞こえていたし、落ちた左眼からは映像が送られて来ていた。主人公は 落ちた左眼で何を見るのか。
 主人公の左眼は主人公の意志と関係なく様々な映像を送って来ている。 まるで自分を殴りつけた犯人を探せと言うように。

 主人公を殴りつけた人物はとても意外な人物である。これが解明するまでに 主人公は自らの出生までをも遡って知る事になる。

 この本を読んで連想したのは清涼院流水「19ボックス」だった。 もしかしたら流水ファンにはこれでこの小説の特異な部分が解ってしまうかもしれない。しかし 「19ボックス」と違うのはきっかけがある、と言う所か。何の、と言うのは突っ込まないで欲しい(笑)。



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